お茶充生活

茶道の日常的な楽しみ方や和室でのマナー、妊娠・育児についてゆるく書いていくブログ

すやの栗きんとんで学ぶ茶の心

だんだんと朝晩が涼しくなってきましたね。9月に入るやいなや、コンビニやパン屋さんなど色々なお店で秋の味覚を使った商品が目立つようになりました。

 

和菓子屋さんも、もう秋らしいものが並んでいるはず。そう思うと急に和菓子が食べたくなり、買い物ついでに高島屋へいった時、見つけてしまったんです。いつも通りの鶴屋吉信さんへ向かう途中。「おお、栗きんとんとは秋らしい……えええ!!!???」

 

すや 中津川名産 栗きんとんf:id:teacere:20190914003041j:plain

全国区での知名度はどれほどかわかりませんが、愛知出身の私にとって、岐阜の中津川はものすごく身近な観光地の1つ。中山道の宿場町の景観を残した伝統的街並みは華やかというよりむしろ侘びたシックな佇まいで、歩いてよし撮ってよし、さらにはここが発祥の地とも言われる栗きんとんのお店が立ち並ぶ、食べてもよしの名所です。

 

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中山道の図。丸をつけたあたりが中津川。(画像はWikipediaより)

 

 

秋には季節限定である栗きんとん目当ての観光客でにぎわうこの宿場町。その中でも一、二を争う有名店が「すや」。元は江戸時代の元禄年間(1688-1704年)に江戸から下った1人の武士が始めたお酢屋だったのが、100年後にお菓子を売るようになったという不思議な経緯のお店です。

 

しかしその栗きんとんのおいしさはまさに一級品。栗のうま味を凝縮したあんの部分は品のいい甘みに、滑らかな舌触り。中に残されている小さな栗の粒を噛めば、口の中に豊かな香りとほくほく感が広がります。甘みも食感も完全に加工しすぎず、あえて自然を残しているこの絶妙なバランスが、ただの栗より栗を感じさせるのです。まさかこの味を東京で食べられるとは……早く教えてほしかった。

 

一通り心の中で食レポしたところで気づいたのですが、この栗きんとんの味、まさに茶道の心な気がします。つまり、完璧主義で作りこむのではなく、自然を残すことで、魅力を最大限に引き出すということ

 

もしこれが、砂糖でしっかり味付けして、完全にペースト状にした栗の塊だったら。モンブランを思えばそれはそれでおいしいのですが、栗そのものとは明らかに違う加工品だと感じると思います。

 

栗きんとんも加工していることは間違いないですが、栗の風味、食感、色といった「栗らしさ」を絶妙に残すことで、「なんだか栗よりも栗らしい」味わいを実現しています。いい意味であざといんです

 

この手法は利休さんが特に好んで使っています。利休さんの教えの1つ「花は野にあるように」という言葉も、つまり「花束やフラワーアレンジメントみたいに1つの芸術作品を作るのではなく、その辺に生えている感じをうまく表現しなさい」ということ。

 

その季節の野原を数本の植物で、実物よりも実物らしく再現するというのは、実際やってみるとものすごく難しいです。私もいつも苦戦していますが、上手な人の入れたお花は本当に、春夏秋冬それぞれの一番いい表情を切り取った写真や俳句のように美しいです。

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先生にコツを聞くと、「まずは実際にその植物が野にある状態をたくさん観に行きなさい。山でも家の庭でもいいから。どんな植物と共にあるのか、どんな場所に咲いているのかよく見なさい」と言われました。つまり上手な人は、そのもの自体を本当によく知っているから、その魅力が100%以上に引き出せるということですね。

 

すやの栗きんとんを食べると、きっとこれを最初に作った人も、栗とものすごく向き合った人だったんだろうなと感じます。すやさんが茶道をやっていたかはわかりませんが、少なくともこういう人がお茶をやったら、きっと名茶人と呼ばれていたんじゃないかなと思います。

 

季節が秋なら、お茶碗などの茶道具、花、掛け軸の言葉などを総動員しながら、完全に作りこむのではないあざとさで、秋をその倍、秋にする。そういうことをするのが茶人です。

 

かなり雑な説明にはなりますが、「茶道ってどういうもの?」「わびさびって何?」と疑問を抱いたら、ぜひ一度この栗きんとんを食べてみてください。

(季節限定ですが、一部の百貨店に卸してるみたいなので、岐阜から遠くても食べるチャンスはあります!以下のリンクから、取り扱い店をチェックできますよ~)

すや / 店舗のご案内

 

※ちなみに茶道を楽しむ席では、遠い土地のお菓子を取り寄せてまで使うのはいわゆる「作りこみすぎ」で風情がないとされていますが、栗きんとんは大好物なのと、お茶席以外で食べたので見逃してください(ボソボソ)

 

以上、茶道と栗きんとんの魅力を東京からお伝えしました。